2026年9月11日 公開 ・ 一般社団法人 愛知ウェディング協議会(監修:中村幸伸)
「名古屋の結婚式は派手だ」と言われます。嫁入りトラック、菓子まき、豪華な結納。テレビドラマにもなり、全国に知られてきました。
私たちは、この地域で結婚式に携わる事業者の団体です。そこで一度、言い伝えと数字を突き合わせてみました。結果は、思っていたものとはずいぶん違いました。
東海地方の披露宴の招待客は平均45.2人で、全国で2番目に少ない人数です。いっぽう招待客ひとり当たりにかける費用は9.5万円で、全国2位。規模が大きいのではなく、少ない人数に手厚くかけるのが、この地域の実像です。
2024年の調査では、東海地方の挙式・披露宴の費用は平均348.0万円でした。全国15地域のうち3位です。たしかに高いほうですが、首都圏(374.8万円)と九州(363.6万円)のほうが上です。「日本一派手」ではありません。
| 項目 | 東海 | 全国 | 全国での位置 |
|---|---|---|---|
| 挙式・披露宴の費用 | 348.0万円 | 343.9万円 | 15地域中3位 |
| 披露宴の招待客 | 45.2人 | 52.0人 | 下から2番目 |
| ひとり当たりの費用 | 9.5万円 | 8.6万円 | 2位 |
| 新婚旅行 | 73.2万円 | 61.6万円 | 1位 |
| ご祝儀の総額 | 189.6万円 | 205.6万円 | 全国平均を下回る |
出典:ゼクシィ結婚トレンド調査2024 東海。2023年4月〜2024年3月に挙式または披露宴を実施した人/東海 n=300
招待する人数はむしろ少なく、ご祝儀の総額も全国平均を下回ります。それでいてひとり当たりの費用と新婚旅行は全国トップクラス。「たくさん呼んで派手にやる」のではなく、「呼んだ人に、しっかりかける」。それがこの地域の形だと、数字は語っています。
花嫁が実家を出るとき、二階や屋根からお菓子をまく。名古屋の風習としてよく知られています。
ただし、これは名古屋で生まれた風習ではありません。愛知県図書館が県史・市史をたどって調べた記録によると、菓子まきは富山県、長野県、兵庫県北部の但馬地方などでも確認されています。菓子を配るところまで含めれば、全国で見られる習わしです。
菓子まきは名古屋発祥の風習ではありません。富山・長野・兵庫但馬などでも確認され、名古屋・尾張では費用をかけて派手に行う傾向があったと記録されています。起源についての記載は、県史にも市史にも見つかっていません。
では名古屋・尾張は何が違ったのか。費用をかけて、派手に行う傾向があった——記録に残っているのは、そこまでです。
由来としては、嫁入り行列への「儀礼的な妨害」に対して振る舞われたものではないか、という説が伝えられています。名古屋市の文化事業のメディアによれば、『名古屋市史 風俗編』には、婚礼の行列に石を投げたり戸板を打ち破ったりする行為を禁じる江戸時代の条令が記載されているとのことです。ただしこれが菓子まきの起源だと実証されたわけではありません。
2024年の調査では、東海地方で菓子まき・菓子配りを行った人は3.0%でした。しかも内訳を見ると、菓子を「配った」人が2.7%で、実際に「まいた」人はごくわずかです。
推移を見ると減り方がはっきりします。2018年の調査では9.9%、2020年7.3%、2022年4.6%、そして2024年が3.0%。6年で3分の1以下になりました。
盛んだったのは昭和30年代から50年代にかけてです。市内の菓子問屋への取材では、当時1軒で1日400〜500個の嫁入り菓子を作っていたといいます。式場で挙式をするのが主流になり、自宅で花嫁の支度を整えなくなると、自宅の屋根からまく光景は姿を消していきました。
「東海の結納は豪華」と言われます。しかし2024年の調査では、東海で結納を行った人は5.7%。全国平均の7.0%を下回ります。
東北や九州では15%前後です。いま東海で主流なのは両家の顔合わせで、90.0%がこれを行っています。
かつて盛大な結納が交わされていたことを、この数字は否定しません。ただ、それは「かつて」の話です。
紅白の幕で飾ったトラックに嫁入り道具を積み、嫁ぎ先まで運ぶ。1970年代から80年代にかけて盛んに見られた光景です。嫁ぎ先では縁側に道具を並べて披露する「衣裳見せ」が行われました。
このトラックには「バックしてはいけない」という言い伝えがありました。後戻りが「出戻り」を連想させるためです。道が狭いところでは周りの車が譲り、新婦の家族がご祝儀を渡すならわしもあったと伝えられています。2000年前後にチャペルでの挙式が広まると、この風景も見られなくなりました。
2024年、愛知県の婚姻件数は32,250組でした。前年より491組増え、5年ぶりの増加です。人口千人当たりの婚姻率は4.5で、全国3位にあたります。
風習は、無くなったから価値が下がるものではありません。なぜそうしていたのかを知っていれば、いまの結婚式に形を変えて受け継ぐことができます。
菓子まきを屋根からする人は、もうほとんどいません。それでも、来てくれた人にお裾分けをするという考え方そのものは、いまの披露宴の中にも生かせます。少ない人数に手厚くかけるという、数字に表れたこの地域の性格も、その延長線上にあるのかもしれません。
一般社団法人 愛知ウェディング協議会は、この地域で結婚式に携わる事業者が業種を越えて集まる団体です。地域の婚礼文化を記録し、次の世代へ引き継ぐことを目的のひとつに掲げています。
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