財布の中の、一枚の手紙
投稿:(ニックネーム/はっちゃんさん)
「ひとつの物語」プロジェクト、第3回。少人数の結婚式で起きた、忘れられない場面についての物語です。
ご親族だけの少人数のご結婚式を選ばれたお二人。新婦様は特にクールで、ご家族のお話もなかなかお話されず、打ち合わせも淡々と進んで行きました。こちらから水を向けても、必要なことだけを的確に返される。その距離の取り方には、はっきりした意思のようなものを感じていました。
当日、感じた違和感
そして迎えた当日。挙式も披露宴も順調に進みましたが、なぜか私は、新婦様とご家族との距離に違和感を感じていました。
うまく言葉にはできません。ただ、少人数だからこそ近くにいらっしゃるはずのご家族との間に、目に見えない一線があるように思えたのです。
その違和感がなんだったのか、はっきりしたのは、新婦様のお手紙の時間でした。
小学生の頃の、たった1回
小さな頃からお仕事が忙しく、家族との時間をあまり取れていなかったお父様。なかなか一緒に過ごせないお父様に、小学生のころ、頑張って手紙を書いて渡したそうなのですが、目の前で読んでくれなかったことが悲しくて——その1回から、手紙を書かなくなり、余計に距離を置くようになったそうです。
「そんなことも、お父様は覚えていないだろうけど…」
そう前置きをした上で、ご家族への思いを、いつものように淡々と読み上げていらっしゃいました。
お父様が、財布から出したもの
手紙が終わり、ご両親へ花束を贈呈されたとき。お父様が財布から何かを出し、新婦様に見せていました。それまで泣かなかった新婦様が、それを見た途端に泣き崩れていました。
お父様は、ずっとずっと持っていたのです。小学生の新婦様からもらった、たった1枚の手紙を。
何度も何度も読み返し、持ち歩いて、大切に保管していたそうです。折り目がやわらかくなるまで開かれてきたその紙が、二十年近く、財布の中にあり続けた。読んでもらえなかったと思っていた手紙は、誰よりも繰り返し読まれていたのです。
涙が止まらなかった
お見送りの間際まで、涙が止まらなかった新婦様。これまでの悲しみや、信じてこられなかった罪悪感など、全てが溢れ出たように見えました。
実は、手紙を読むかどうかも、ギリギリまで決められなかった新婦様です。読まないという選択も、十分にありえました。
結婚式という場が、空気が
結婚式という場が、空気が、お父様と新婦様の溝を埋めてくれたと感じました。日常のなかで、あの手紙が財布から出てくることは、きっとなかったと思います。あの日、あの時間、あの場所だったから、お父様は手を伸ばせた。
その瞬間をこの目で見られたこと、結婚式のパワーを肌で感じられたことが、私は今でも忘れられません。
「ひとつの物語」プロジェクトについて
結婚式ひとつひとつに、素敵な物語があります。プランナー、ヘアメイク、カメラマン、フローリスト、ドレスコーディネイター、司会、音響、サービス、料理人——それぞれの立場から見た結婚式のエピソードをお寄せください。
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