2026年10月9日 公開 ・ 一般社団法人 愛知ウェディング協議会(監修:理事 中村幸伸)
名古屋・東海の結婚式の風習としてよく知られているのは、菓子まき、嫁入りトラック、豪華な結納、名披露目(なびろめ)です。数字と記録で確かめると、菓子まき・嫁入りトラック・結納は、ほとんど見られなくなりました。いまに続いているのは、名披露目と、招いた人に手厚くかけるという考え方です。
このページは、協議会がこれまでに公開した結婚式文化ガイド7本の要点を、風習ごとにまとめたものです。数字の出典と詳しい経緯は、それぞれのガイドに載せています。
| 風習・項目 | 東海 | 全国 |
|---|---|---|
| 菓子まき・菓子配りを行った人 | 3.0% | — |
| 結納を行った人 | 5.7% | 7.0% |
| 結納をせず、顔合わせだけを行った人 | 90.0% | 85.6% |
| ゲスト1人に贈った品数(引出物・引菓子など) | 2.7品 | 2.6品 |
| 引出物などのオンライン化(ゲスト全員) | 23.2% | 15.4% |
| 新婚旅行のお土産代 | 11.2万円 | 8.1万円 |
| 人前式を選んだ人 | 51.9% | 36.7% |
出典:ゼクシィ結婚トレンド調査2024 東海(リクルート、2024年10月)。2023年4月〜2024年3月に挙式または披露宴を実施した人が対象。全国は推計値。菓子まき・菓子配りの全国の数字は、調査に示されていません
花嫁が実家を出るとき、二階や屋根からお菓子をまく風習です。名古屋の風習としてよく知られていますが、名古屋で生まれたものではありません。愛知県図書館が県史・市史をたどって調べた記録では、富山県、長野県、兵庫県北部の但馬地方などでも確認されています。名古屋・尾張について記録に残っているのは、費用をかけて派手に行う傾向があったということです。
盛んだったのは昭和30年代から50年代にかけて。式場で挙式をするのが主流になると、自宅の屋根からまく光景は姿を消していきました。2024年の調査で、東海で菓子まき・菓子配りを行った人は3.0%。2018年の9.9%から、6年で3分の1以下になっています。(詳しくは数字で見る、東海の結婚式)
紅白の幕で飾ったトラックに嫁入り道具を積み、嫁ぎ先まで運ぶ風習です。1970年代から80年代にかけて盛んに見られました。後戻りが「出戻り」を連想させるため、バックしてはいけないという言い伝えがあり、道が狭いところでは周りの車が譲ったと伝えられています。
嫁ぎ先では、縁側に道具を並べて披露する「衣裳見せ」が行われました。名古屋市域には、嫁入り道具を近所に披露する「エリカザリ」という習慣もありました。2000年前後にチャペルでの挙式が広まると、こうした風景も見られなくなりました。(詳しくは数字で見る、東海の結婚式)
「東海の結納は豪華」と言われてきました。昭和の記録にも、尾張地方の婚礼は「派手なことで有名」と書かれています。けれども2024年の調査で、東海で結納を行った人は5.7%。全国平均の7.0%を下回り、東北や九州(15%前後)を大きく下回ります。いま主流なのは両家の顔合わせで、結納をせず顔合わせだけを行った人が90.0%です。
三河には、結納品を交わすのとは別の形の婚約の儀礼も伝わっていました。徳利転がし(とっくりころがし)——婿方が持参した酒を両家の関係者で飲み干し、その徳利を転がして結婚を約束するものです。西三河の平野部を中心に、東尾張から知多半島にかけて分布していました。(詳しくは結納は、するのか)
東海には、引出物と引菓子のほかに名披露目(なびろめ)を贈る習慣があります。新郎新婦の名前を入れたのし紙を付けた品物で、二人の名前を覚えてもらうためのものです。タオルや鰹節などが選ばれ、1人あたり1,000〜2,000円ほどが目安とされます。結婚した花嫁を近所に紹介するとき、名前を入れた風呂敷に品物を包んで配ったのが始まりといわれています。
「名古屋の引出物は多くて重い」と思われがちですが、東海でゲスト1人に贈った品は平均2.7品で、全国平均の2.6品とほぼ同じです。品数が多いのは北陸でした。いっぽう引出物の金額は1人あたり7.1千円で、全国平均の6.3千円を上回ります。
中身も変わりました。ウェブで選ぶカタログ式ギフトは、5年で8.9%から48.9%へ。引出物・引菓子をオンラインで受け取ってもらう形をゲスト全員に取り入れた人は23.2%で、全国15地域の中で最も高い割合です。両手に紙袋という帰り道の光景は、この地域でこそ変わりつつあります。(詳しくは引出物は、多くて重いのか)
東海の挙式・披露宴の費用は平均348.0万円で、全国15地域の3位です。首都圏(374.8万円)と九州(363.6万円)のほうが上で、「日本一派手」ではありません。
特徴は、かけ方にあります。披露宴の招待客は平均45.2人で、全国で2番目に少ないのに、招待客ひとり当たりの費用は9.5万円で全国2位。披露宴の料理は1人あたり1万7,800円で全国1位、新婚旅行のお土産代も11.2万円で全国1位です。たくさん呼んで派手にやるのではなく、呼んだ人に、しっかりかける。それが、数字に表れたこの地域の形です。(詳しくは料理に、いちばんかける東海、新婚旅行のお土産に、11万円)
東海で人前式を選んだ人は51.9%。全国平均の36.7%を大きく上回り、首都圏(26.4%)の約2倍です。2018年にはキリスト教式のほうが多かったのが、2021年に逆転しました。(詳しくは東海の挙式は、人前式が半分)
名古屋の派手な婚礼の始まりを、1615年に和歌山から名古屋城へ嫁いだ春姫の輿入れ(長持300棹と伝わる行列)に求める話が語られることがあります。けれども、協議会が確かめた論文、名古屋城、徳川美術館の説明のどれにも、春姫の婚礼が名古屋の婚礼の派手さの起源だという記述はありません。そう語られることがある話、として受け止めるのが確かです。
名古屋には、もうひとつの大名の婚礼の品が残っています。1639年、2歳6か月で尾張徳川家2代・光友に嫁いだ千代姫の婚礼調度で、国宝「初音の調度」として徳川美術館が所蔵しています。(詳しくは尾張徳川家の二つの婚礼)
ここからは、協議会の見方です。菓子まきは近所へのお披露目、名披露目は名前を覚えてもらうため、新婚旅行のお土産は周りへの挨拶。人前式は、集まった人に結婚の証人になってもらう形です。この地域の婚礼には、結婚を周りの人に知らせ、分け合う仕掛けが多く残ってきました。
屋根から菓子をまく人は、もうほとんどいません。それでも、来てくれた人にお裾分けをするという考え方そのものは、いまの披露宴の中にも生かせます。
風習は、無くなったから価値が下がるものではありません。なぜそうしていたのかを知っていれば、いまの結婚式に形を変えて受け継ぐことができます。
ここに記した東海の数字は、2024年版の「ゼクシィ結婚トレンド調査」によるものです。この調査は2024年版をもって終了し、後継の調査には東海の地域別の集計がありません。
一般社団法人 愛知ウェディング協議会は、この地域で結婚式に携わる事業者が業種を越えて集まる団体です。地域の婚礼文化を記録し、次の世代へ引き継ぐことを目的のひとつに掲げています。
この記事は、公開されている資料にあたって作成しました。裏づけの取れなかった言い伝えは載せていません。 記載の誤りにお気づきの際は、お問い合わせからお知らせください。
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